金融機関は、債務者格付けによって、貸出先の分類を行うことはご理解いただけたでしょうか。
融資の審査は決算書で7割決まります
融資ができる、できない。する、しないの決めて手となるのは、やはり決算書です。
決算書の内容で7、8割程度がきまります。たとえ、直近で経営状況が良くなってきていたとしても、決算書の内容で判断されます。
決算書は年に1回しか出ませんから、そこで内容の芳しくない決算書があがると、次の決算書があがるまで、その数字がついてまわることを理解しておいてください。
決算書は、経営者の鏡です
事業に対する経営者の考え方が、決算書の中の貸借対照表にはハッキリとみて取れる様になります。
資産を現金で持つのか?有価証券にするのか?不動産として持つか?資金の調達をどこから起こすか?すべてが、貸借対照表から読み解けます。
そして、最も重要視されるのが「資産の部」です。ここが、実体に即しているのかまで、金融機関がしっかりと見てきます。
まず最初に確認されるのが「純資産合計」です。ここでプラスになっていないと、銀行は融資に消極的になります。
なぜなら、「純資産合計がマイナス」ということは、「債務超過」の状態にあるということですから、理論上は企業が破綻しているという状態です。事業資金が回っているうちは何とかなりますが、資金繰りがとまり、会社を清算という段取りになると全ての資産を処分したとしても、全ての債務を返済することができないう状況です。
したがって、これから新規取引を始めようと金融機関を開拓するような場合、プロパー融資を受けたいというような場合では、難しいと言わざるを得ません。
では、純資産がプラスであれば、簡単に融資が受けられるのか?
これが、そう簡単には行きません。中小企業の多くは貸借対照表の資産の部には、多かれ少なかれ実態とは齟齬が生じていることがあります。資産を1つ1つ確認していくと、実は「債務超過」の状態にあったという事もしばしばあるようです。
この実態を見る為に、金融機関が見るべきポイントについて、見ていきます。
流動資産
資産の内、1年以内に現金化できるものを、「流動資産」と言います。
現金・預金
預金については、通帳を確認することで残高確認が取れるので、実体と齟齬があることは稀です。残高証明書のついた決算書もあります。
一方、現金については、実際の残高と違う数字が計上されやすい項目です。
そもそも、日ごろの金銭は管理が杜撰な場合は、どうしても残高が不明になり、だいたいこれ位という処理になりがちです。
顧問の税理士さんがついていても、そこまで細かく見てもらえないということです。
ここに、あまりに現実離れした数字が計上されていると、決算書全体の不信感を買いかねませんので、きちんと処理をしておくべきです。
受取手形・売掛金
売上債権が適正なボリュームで計上されているかは、「売上債権回転期間」という指標を持って判断されます。
売掛金、受取手形が一体どれ位の期間で回収されるのかということです。
業界の慣行で、平均的な回収期間があるはずです。その平均と比べて極端に長くなっているようだと、不良債権化しているのではないか?売上を水増してしているのでは?
と疑われます。
売掛金の回収に時間が掛かると言うことは、その分運転資金が必要ということですので、資金繰りが傾く方向に影響します。そのことまで含めて金融機関はチェックをしてきます。
棚卸資産
適正な在庫管理がなされているか、在庫を何か月分持っているのか(在庫回転期間)を確認します。
在庫とは、お金が形を変えてそこに存在しているものですが、その在庫期間が長いと言うことは、資金が動かずに倉庫に眠っている状態ですから、資金繰りが傾く方向に影響します。
在庫回転期間が長いということは、不良在庫が隠れていたり、処分するにできない在庫があるというような事態が想定されます。
そして、この在庫も水増しの温床になりやすく、金融機関はしっかりとチェックをしてきます。
短期貸付金
「不良資産では?」と、最も疑われる資産、それがこの「短期貸付金」です。
社長や親族役員への貸付、関係会社への貸付等は、帳簿上は一応貸付になっており、資産計上されていますが、返済される見込みは無いに等しいというケースです。
同じことは、長期貸付金にもいえます。そのた、仮払金、前払費用、前渡金、未収入金、立替金等の勘定科目も数字が目立ってくるようになると、実質不良債権では?と、見られるようになります。
固定資産
長期間に渡って所有又は利用する資産を固定資産と言います。
有形固定資産
土地や、建物、建物付属設備、機械装置、車両等が有形固定資産の代表です。
不動産の価値は、バブル期のように、上がり続けるような時期もありましたが、現在は落ち着いています。逆に、この時期に高値で購入してしまった不動産については、含み損が発生しています。金融機関にとって関心のある部分は、この「含み損」です。
したがって、決算書に不動産があれば、当然含み損については見られることになります。
建物、機械装置、車両等は、減価償却費として経費に算入します。減価償却費の計上は法人税法上任意であるため、これを計上すると赤字決算になるような場合は、表面上黒字に見せるために、減価償却費をしないこともあります。この点も、固定資産明細でチェックされます。
無形固定資産
特許権等の知的財産権、ソフトウェア、営業権等です。どれだけ素晴らしいソフトウェアシステムを組んでいたとしても、その企業専用に構築されたものであれば、汎用性が無いため対外的な価値はありません。
したがって、システム構築に何千万も掛けていたとしても、流通性が無いため、価値は無いとの判断にいたります。
逆に一般的なソフトウェアである場合、市場で流通しているようなシステムは、明確に価値を示すことで資産として評価されます。
投資・その他資産
長期貸付期、差入保証金、長期、前払費用、保険積立金、投資有価証券、、子会社出資金、関係会社株式等が計上されます。
特にチェックされるのが、「長期貸付金」「投資有価証券」「ゴルフ会員権」「関係会社への出資」等です。
長期貸付金については、短期貸付金と同じ理由です。関係会社への出資等は、単純に関係会社の赤字補填に使われている場合が多く、企業の資金が流失しているだけとして、資産価値無しとされることがあります。
投資有価証券やゴルフ会員権等については、時価に引き直し、簿価との乖離を調査します。
繰延資産
創立費、開業費、試験研究費、開発費、新株発行費、社債発行費等です。
既に、支払の完了しているもので、本来的には経費として計上されるべきものですが、減価償却と同様資産として計上し、償却することで費用処理が認められているものです。
したがって、回収できるものとは言えず、繰延資産自体がいくら計上されていたとしても、資産価値として評価されることはありません。
流動負債・固定負債
負債の部に粉飾がなされることは、レアケースです。
ごくまれに、融資残高に手を加えてい場合があるようですが、銀行との取引において、絶対にやってはいけない行為です。
必ず、銀行の知るところとなり、信用を失い、事業の継続は難しくなる言わざると得ません。
支払手形・買掛金
仕入債務が適正に計上されているかがポイントです。
仕入債権回転期間と言います。売上債権は、短期に回収できればそれだけ資金繰りに余裕ができるのとは反対で、仕入債権は回転が遅いほど、資金が出て行かない時間が長くなるので、資金繰りが楽になります。
つまり、仕入の支払いから、売上金の回収までの期間が短れば短いほど、資金繰りに余裕がでるということです。金融機関はそのサイトを判断することで企業の必要運転資金を判断します。
役員借入金
中小企業の多くは、社長=大株主であり、代表取締役です。したがって、金融機関も「社長=会社」と見ます。
「社長のお金は、会社のお金」「親族役員のお金は、会社のお金」と判断される傾向になります。
これは、役員借入金は資本金と判断されうることを示します。
実務上も、借入金とは言え、借りっぱなしの状態で出資に近いものであれば、資本金としてみなすケースもあります。
融資金額を決める判断指標
例えば、あなたが、友人から「100万貸して」と言われたとします。
その友人の年収が、200万だったら、1000万だったら、貸しますか?貸さないですか?
金融機関は、融資したお金を利息と一緒に回収してビジネスを成り立たせています。
この企業には、幾ら貸せるのか?その判断は基準についてみていきましょう。
借入月商倍率
借入金の残高が、企業の平均月商の何か月分に当たるのかを見る数字です。
例えば、年商1億2千万の企業が、借入残高4千万だったとすると、
1億位2千万÷12で1千万。残高4千万なので、4千万÷1千万で「4」という数字が出ます。
借入月商倍率「4」ということです。平均月商の4か月分相当の借入があるということですね。
一般的に金融機関はこの数字「3」を適正な借入数値とします。「6」を超えているようだと、新規の借入を起こすのは難しいと言える状況です。
運転資金として融資を申込のか、設備資金として融資を申込のかで若干の違いがありますが、「6」を超えないよう、「3」以内に収まるように努力をしていきましょう。
債務償還年数
今現在の有利子負債に対して、キャッシュフロー全てを返済にあてると、全額返済にどれだけの期間を要するのかを見る指標です。
貸借対照表でいう「短期借入金」「長期借入金」「社債」の合計金額が、有利子負債です。この数字をキャッシュフロー(税引き後計上利益+減価償却費)で割ることで算出される数字です。厳密にすると、もう少し込み入った計算が必要ですが、簡易的に見る分には、これで大丈夫です。
この数字が10以内になるような資金繰りを目指しましょう。この数字が大きいという事は、完済までにそれだけの年数を要するという事です。返済が長期に渡れば、様々なリスクが発生する可能性が上がります。金融期間の設定している債務償還年数は「15」年程度と言われています。
有利子負債依存度
総資産に対して、有利子負債残高がどれだけあるのかを見る指標です。この割合が60%を超えて来ると金融機関は、危険と判断します。
つまり、企業経営において、借入に頼っていることを意味します。資金調達に懸念が発生すると、資金繰りが一気につまりそのまま破綻する可能性が高いといえます。
依存度が高い企業は、借入過多の為、利息負担も大きく、金利の上昇の影響をもろに受けます。これにより、資金繰りの悪化を招くことにもなるので、やはり借入が大きすぎる経営体質は改善していかなければなりません。
企業の安全性判断の指標
金融機関は企業の何を見て、その企業の安全性を判断しているのか?
自己資本比率
総資産に占める自己資本の割合を示す指標であり、企業の安全性を図る指標の代表的なものです。
「自己資本比率=自己資本÷総資産×100」です。
この比率が高いと言うことは、負債に頼らずに自己資本で経営しているということになり、経営が安定しているということです。
逆に、低いということは、融資等他人資本で経営をしている状態といえ、不安定ということです。
自己資本比率は30%を目指して経営しましょう。
自己資本率を上げる
自己資本率を上げる方法は2つ。
1つは、利益を出すか増資して自己資本を多くする。
1つは、分母となる総資産を小さくするということです。
「総資産を小さく」とは、不動産等の高額な資産は所有せず、必要のない資産を極力持たないとすることです。自社ビル、自社工場、これだけで総資産は大きくなります、税金もかかります。これらを売却して売却資金で負債を減らし所有から賃貸にするだけで、総資産が小さくなります。分母が小さくなれば、自己資本率があがり、経営効率も上昇するメリットがあります。
流動比率・当座比率
企業の短期的な安全性を図るための指標です。
「流動比率=流動資産÷流動負債×100」と計算します。1年以内に返済すべきである流動負債を1年以内に現金化できる流動資産でどの程度カバーできるのかを見る数値です。
理想値は200%以上です。この値が100%を切っている場合は、1年以内に現金化できる資産だけでは、1年以内に支払の来る負債をカバー出来ないことを意味します。つまり、1年以内に資金繰りがショートする恐れがあります。
これをさらに厳しくみたものが「当座比率」と言われる指標で「当座比率=当座資産(現金・預金・、売掛金、受取手形)÷流動負債×100」です。
こちらの指標は、100%になるよう努力していきましょう。
固定長期適合率
企業の短期的な安全性をみる流動比率にたいして、こちらは「長期的な安全性」を見る指標です。
「固定長期適合率=固定資産÷(自己資本+固定負債)×100」です。固定資産のうち、どの程度が自己資本と長期借入金で賄われているかを示す指標です。一般的には100%を切っていることが望ましいと言えます。
この比率が100%を超えているという事は、イメージとしては、固定資産を短期の借入金で購入してしまったような状態です。資金繰り悪化の原因となります。
損益計算書を読む
売上・利益
企業の成長性を確認するために、決算書は3期分を用意します。3期に渡っての売上の推移を確認することが重要です。
増収・増益が理想的ですが、減収・増益でも利益が増えているのであれば、負債採算部門の整理が行われたということでしょうから、経営体質が改善されたと言うことです。
これとは反対に、増収・減益はどこかに問題を含んでいる可能性があります。
減益の原因を早期発見することが重要です。単純に売上が上がったからと言って、喜んでいると気が付かないうちに資金繰りに影響がでます。
営業利益・経常利益・当期純利益
金融機関は、「営業利益」「経常利益」の2つの利益を重要視します。
「営業利益」が出ていないと言うのは、つまり、赤字です。営業を続ければ続けるほど、苦しくなります。
当然、返済の見込み無しという判断で、金融機関からの融資は実行されません。
「経常利益」とは、「営業利益」に「営業外収益」をプラスし、「営業外費用」を引いたものです。営業外費用の大部分は、通常金融機関からの融資の利息の支払いです。
つまり、「経常利益がマイナス」ということは、銀行からの融資利息を払うだけの資金がないということです。
利息が払えない、これは、銀行にとって、「売上」にあたるものが回収できないという状態です。当然、金融機関は融資に対して消極的にならざるをえませんね。
キャッシュフロー
キャッシュフロー【有利子負債÷(税引き後計上利益+減価償却費)】で算出される数字でしたね。この数字がマイナスになるという事は、融資の返済に充てられる資金が無いと言うことを意味します。多くの中小企業では、返済財源を確実に確保できているとことは多くはありません。むしろ、マイナスになっている方が多いかもしません。
では、金融機関は融資をしてくれないのか?と言うと・・・
「不足分も合わせて融資をします。つまり、借りているお金を返す為に、お金を借りる」という状況です。